こんにちは!
Wind Band Press編集長の梅本です。
この編集長コラムでは、最近気になることや、経験上何か役立ちそうなことなんかを、ちょこちょこと書いていきます。
(かなり久しぶりな気がします)
■「好き」であることを表明しよう
演奏会に行って「良かったな~」としみじみしたり、あるいは「なんか物足りなかったな~」などと感じることはありませんか?おそらく皆さん何かしらの心の動きがあるのではないでしょうか。
僕は最近は演奏会に行った後、感動するポイントなどがあればnoteに感想をまとめています。その後でSNS(主にXですが)で楽団や演奏家の名前を検索して、他の方が同じ演奏会の感想を投稿されているかどうか確認したりもします。
今回Wind Band Pressでこの記事を書く理由は、「演奏会後の感想を読みたいなあ」とSNSで検索しても、それに触れている投稿が少ないときがままあるからです。そして、より多くの方に演奏会レポート(それは長文でも短文でも構わない)を書いてほしいと思ったからです。
もっとみんなの感想が見たい!「演奏会に行ったよ」という「報告」以外の投稿を見たい!
しかし、なぜ書かないのか?なぜ書けないのか?
「語彙力がないから書けない」「分析する時間がない」「オタクの人からツッコミが入らないような完全無欠の知識がない」・・・そんな理由もあるかもしれませんね。
僕自身、昔はBand Powerという媒体で演奏会レポートを書いていましたし、たくさんのCDのレビューを書いていました。高校から吹奏楽を続けていましたが、だからといって吹奏楽に詳しいわけでもない。僕はオタクではなかったので知識もありません。さらに、誰に文章術を習ったわけでもありません。単にそれが仕事だったのでやるしかなかっただけです。
ところが最近は僕もどうにもうまく書けなくなってしまっています。「書きたくない」がより近いですね。
でも自分のことは棚に上げてしまって申し訳ないのですが、愛好家の皆さんの演奏会の感想は読みたいので、「もっと書いてくれないかな~」とずっと考えていたわけです。とは言うものの、書けないものは書けないですよね。ハードルが高く感じます。わかります、その気持ち・・・。今の僕がまさにそれです。
書店にいけば「書くテクニック」の本はたくさんあるのですが、そういうことではなく、本質的な本があればいいなあと思っていたところ、先日ようやく見つけました!
「なぜ書けないのか?」「どうしたら『最高だった』『ヤバかった』以外の感想を書けるようになるのか?」それに応える良書に出会いました。
そこでその書籍を元に記事を書いてみようと思ったのです。
その書籍を先にご紹介しましょう。お近くの書店でお買い求めください。
書名:「好き」を言語化する技術(ディスカバー携書)
著者:三宅香帆さん
本書は、2024年7月31日に刊行された書籍で、8月には増刷がかかったそうです。2023年にディスカバー社より刊行された『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』の携書版なんだそうです。判型以外のコンテンツは同じとのこと。「携書」とあるように、持ち運び安く読みやすいサイズで、読むのが遅い僕でも1時間半くらいで読めるくらいの本です。
三宅香帆さんは、16万部を突破した「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」という本が人気の書評家、作家さん。御本人も「推し」を持つオタクの一人であるそうです。特に宝塚が好きだそうですよ。
本と著者についての紹介はこのあたりにしておきましょう。
長文か短文(それこそXの140文字とか)を問わず、「推しについて書きたいけど言葉が見つからない」というような体験は誰にでもあるのではないでしょうか?僕にもあります。
言葉に出来ない思いこそが「感動」であるとすれば、やはり演奏会に行って感じた「感動」を言葉にするのは難しいと思われるかもしれませんね。
ただ、「好き」であることや、「感動した」ことは誰かと共有したいし、同じ趣味の仲間が増えれば最高ですよね。
本書には抽象的な考え方から具体的な事例まで書かれていますが、テクニック偏重の本ではありません。テクニカルな部分も少し教えてくれていますが、半分くらいは考え方の本です。
本書によれば、まず書きたい場合のとっかかりとして、「好きなこと」「嫌いなこと」「心が動かされたこと」なら、なんでも良いのでひとつ「具体的に」挙げてみよう、というようなことが書かれています。
これが演奏会の感想であれば、「1曲目のここがこうで~2曲目はここがこうで~」などと演奏会全体を緻密に書かなくても良いのです。
「一曲目の最初の音がよかった」「構成が良かった」など、なんでもいいのですが、一つで良いので具体的に「感情」をメモしておきましょう。
そのメモから「なんで良いと思ったんだろう?」というような「なぜ?」を繰り返していくこと、そしてそれを広げていくことで感想が具体的になっていきます。この拡張に「客観的な正しさ」は必要ありません。あなたの感想なので、主観的で良いし、妄想で良いのです。
演奏会のレポートを書く、CDのレビューを書く、となると、「膨大な知識」であったり「客観的な正しさ」を求められるのではないか?とビビってしまいがちですが、その必要はありません。
なぜなら「妄想を繰り広げる」ことが「あなた自身の言葉」を見つけるために最も重要な作業だからです。
誰かと同じ感想、誰かと同じ言葉、になってしまうと「自分が書かなくても良いじゃん」となってしまいますよね。「ヤバかった」が出発点であっても、他人の言葉を借りず、自分なりのオリジナリティのある表現であれば、それは「あなた自身の言葉」になります。
同じ演奏会、同じ演奏であっても、人によって感じ方は違います。それぞれの人生の背景が違うのですから当然ですよね。ですので感想、レポート、レビュー、そういったものに「正解」はありません。
感想に正解はないのですから、正しくあろうとする必要もありません。他人とは感じ方が違うのですから。
もちろん「正しさ」を求める人や「自分こそが正しいのだ」という人からケチをつけられることもあるのですが、それはそれで「こんな感じ方もあるんだな」と見識が広がるので、ありがてえなあ、と受け取っておけばいいのかな、という話ですね。
どんな反発を受けるかは内容よりも言葉遣いだったりする場合もあります。特に誰かにとっての感動を「否定」するような書き方はしないほうが良いでしょう。「今回の演奏はここが最悪だった」などです。
とはいえヨイショ記事を書く理由もないですよね。違和感を感じたことも、嘘をつかずに書くべきです。
その場合、例えば「今回の演奏のこの部分に感動した人も多いかもしれないけど、自分には違和感を覚える箇所だった、なぜなら・・・」という形で「良いと思った人もいるということも考慮に入れていますよ」と前置きをつけることで、「ふむ、お主の考えも聞いてみようか・・・」と受け入れられる可能性が高まるでしょう。
■感動したポイントを細分化する
重複しますが、文章を書く前に、「自分の感想は特にオリジナリティがないから」と思って、書くことを控えてしまうこともあると思います。
では、どうやったら「ありきたりでない」感想が書けるようになるのでしょうか。感動したポイントの具体例が細ければ細かいほど、オリジナリティ、すなわち「あなただけの言葉」が出るようになります。
1. どこに感動したのか?
↓
2. どんな感情だったのか?
↓
3. どうしてその感情を抱いたのか?
という3つのポイントをそれぞれ具体化する作業が必要です。
ちょっと難しそうですが、慣れなので、安心してください。
1の「どこに感動したのか」は割と簡単だと思います。「音が良かった」なら演奏会全体の中で「いつそう思ったのか」ということなので、「1曲目の最初の音」だったかもしれないし、「1曲目の中間部の弱奏部の中の音」だったかもしれません。「表現が良かった」にしても同じことです。
もともと追っかけをしているような一人のファンとしての感想であれば「ドレスが今回はこんなふうで綺麗だった」でもいいと思います。感動ポイントは人それぞれです。
2の「どんな感情だったのか?」は、雑にいえば「好きか嫌いか」に分かれるでしょう。「好き」にも色々ありますが、「嫌い」にも色々あります。「退屈」「失望」「ありきたり」などがあげられます。
この場合の「嫌い」は「好き」に含まれる期待感の裏返しでしょうね。「好きで、期待するからこその残念感」というのは「推し」を持つ方の多くが経験されているのではないでしょうか。本当に嫌いだったらそもそも演奏会に行かないですし、それをどこかに書く必要はないと思います。本当に嫌いな人や楽団のことを考えるのは人生の時間の無駄ですから、放っておきましょう。目に入らないところに置いておくのが良いでしょう。
3の「どうしてその感情を抱いたのか?」の部分については、「自分の過去の体験」「他の好きなもの(趣味など)」との共通点や、共感出来るポイント、または逆に予想だにしていなかった「驚き」ポイントを探すと、「なぜ良いと思ったのか」が自分の中でしっくりくるかもしれません。
どんな感情だったにせよ、具体化することが大事です。
ただし「あれも感動した、これも感動した・・・」とポイントが増えすぎると、レポートとしては散漫な文章になってくるので、慣れないうちは「今回は特にここを推す」と決めてしまったほうが良いでしょう。
僕がBand PowerでCDレビューを書いていたときも、例えば出版社の参考音源集CDなどの場合、「あの曲も良い、この曲も良い」と書いたときより、アルバムの中の1曲に集中して「これだけは必聴、この曲のここが凄い」というように絞ったほうがよく売れる、ということが多々ありました。(この手法は僕は当時苦手で、他のスタッフがよく使っていた手法です)
■書き始めるポイント
まずは、他人に見られないところに書きましょう。スマホのメモアプリや、メモ帳、パンフレットの余白でも良いでしょう。パソコンであればブログなどの下書きでも良いですし、テキストファイルでも良いです。
いきなりSNSにズドン、と落とすと元には戻れません。特に「嫌い」を落とすと、狂信的なファンから要らぬ反発を受けるハメになります。
嫌いな、または違和感を感じた部分について書く場合は、「全体的に」のような言葉は使わないほうが良いでしょう。全体的に悪い演奏会ってほぼないと思います。「絶対」「~すべき」などの断言も避けましょう。
負の感情は「一般論」にせず、あくまで自分だけの感情にすることです。顔も名前も知らない誰かの代弁者になろうと思わないこと!特にSNSではただでさえ言葉のナイフが飛び交っています。自衛のためにも、慎重に言葉を選ぶほうが良いでしょう。
文章の書き始め、語り始め(つまりその文章の冒頭)には、対象の演奏会、演奏家など、あなたの「推し」または「今回推したい演奏会」について、読み手がどれくらい情報を持っているかの距離感、つまり「情報量の差」を意識したほうが良いそうです。
読み手にとって情報に差があるからこそ(知らない情報があるからこそ)、あなたの発信に価値が生まれます。
「へえーそうだったんだ!」という文章を読むと、なんだか読んで得した気分になりますよね。そういうわけです。
自分と相手の間に情報や価値観の溝があることを認識した上で、「好き」という気持ちを伝えるために、埋めなければいけない情報をあらかじめ埋めておくことが必要になってきます。
ただし、あくまでもあなたの「好き」という感情(または違和感)を伝えるのが目的なので、この最初の情報量は最低限でよいです。「どんな人に読んでもらいたいか」を考えて、情報の量を調整すると良いでしょう。
なお、オタク的な楽しみ方としては「専門外の人にはわからない専門用語」で畳み掛けたいところですが、専門用語、その業界でしか通用しない用語をどうしても使いたい場合には注釈をつけると良いでしょう。
※SNSで仲間同士でやり取りする分には前者でも全く問題ないと思いますが本記事はその話ではないのでSNSでの発信については省きます。
感想、レポートを書くときのテクニックのひとつとしては、一旦ラフで良いので「最後まで書く」ことです。作曲と似ているかもしれませんね。曲を書き始めるのも難しいですが、終止線を引くのが最も難しい。
なぜ「書き終える」ことが難しく感じるかというと、「何を伝えたいのか」というゴールが決まっていないからです。逆に「何を伝えたいのか」というゴールが決まっていれば、書き終えることはそんなに苦ではないのです。
大槻ケンヂさんがライブについて「ライブ中はいつまでこの坂が続くのだと思いながらやっているが、必ず終わりが来ることがわかっている(だからやれる)」というようなことを著作で書かれていました。
文章も同じようなものかもしれません。ゴールが決まっていれば、少しずつでも書き続けることができます。
■推敲(すいこう)しよう
最終的に「良い文章」「誰かに共感してもらえる文章」に仕立て上げるためには、とにかく「推敲(すいこう)」です。(※Oxford Languagesの定義によれば「推敲」とは、「詩や文章をよくしようと何度も考え、作り直して、苦心すること」だそうです)
最初は「修正することを前提に」書きはじめましょう。この場合は「一旦書き終える」ことを目標にします。日本語が意味不明でも、構成が無茶苦茶でも良いので、一旦書きます。
そして長文でも短文でも、推敲する時間や心の余裕があれば絶対に推敲したほうが良いです。
出来れば一晩寝かせたほうが良いです。なぜなら、その日のうちは、その「好き」(または嫌い)という熱に浮かされている状態で、言ってしまえば冷静ではないからです。翌日、冷静になって読み返すと、結構恥ずかしい表現や、避けるべき表現、または削除できる文言や文章がたくさん出てきます。
適切な言葉、適切な構成、適切な文章への「修正」+不要な文言や文章の「削除」。
これを行うことで、最初の版を書き上げたときの「勢い」に「冷静さ」が加わり、より良い文章となります。発表後にも、好意的な反応が返ってきやすくなるでしょう。好意的な反応が多ければ、あなたは「また感想を書きたい」「書いて良いんだ」と思えるようになると思います。何よりポジティブな反応は嬉しいですよね。その体験が何より大事です。
さあ、最近あなたが行かれた演奏会はいかがでしたか?きっと何か心が動いたことでしょう。次の演奏会でも、きっと何かしらの感動があると思います。まずはそこから。「誰にも見られないところ」にメモやラフを書いてみましょう。
そして、あなたなりの感想を、愛好家や、または愛好家ではないけど興味がないわけでもない人など、あなたが「好き」を伝えたい人たちに届けてください。
毎日のように、オリジナリティあふれる、その人ならではの演奏会の感想であふれる日が来ることを願っています。
どうか、あなたが「好き」を言語化できますように。
以上、ざざっと簡単に書きましたが、紹介した書籍には当然もっと詳しい具体例なども記載されていて、「やばかった」しか書けないあなたのバイブルになってくれると思います。
ぜひお近くの書店でお買い求めください!そしてあなたの「演奏会の感想」を書いてください!
txt. 梅本周平(Wind Band Press / ONSA)
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